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全日本チャンピオン宮澤崇史に聞け【完全版】

全日本チャンピオン宮澤崇史に聞け 完全版



*本インタビューは、エキップアサダ広報誌「Abloc(アブロック)」第5号に掲載の「全日本チャンピオン宮澤崇史に聞け」インタビューのノーカット完全版となります。

*  *  *

2010年度日本チャンピオン宮澤崇史(伊ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットーリ所属)。
彼のカリスマ性や、確固たるロードレース哲学、こだわりのスタイルは今までの自転車ロードレース選手から見ると異質のものだ。
実際、生き馬の眼を抜くロードレース界では、普通の感覚・常識を持ち合わせていては生きてゆけないだろう。


(写真:全日本チャンプジャージに身を包み、イタリアを駆る)

このインタビューでは”日本人”宮澤崇史が、如何にして欧州で生き残るため自身を高めて行ったのか?
または如何に自分の信念を変えずに困難に立ち向かっていったのかを明らかにする。
これから世界を目指す若者たちの道標して欲しい
(2011年2月インタビュー実施)

★宮澤崇史の強さの源はなんでしょうか?
私が自転車選手である自分自身に対して心に強く思った事が何点かあります。
1:自分が初めてツール・ド・フランスを見た時、自転車選手になりたいと強く思った。
2:シクロクロスの世界選手権で22位に入った時、自転車関係者の人に「若い時強い選手って大成しないんですよね」と言われた時、絶対強くなって見せる!と思った。
3:アマチュア選手としてイタリアで右も左もわからない中、アジア人で背も小さい、というだけで集団内で弾かれる事が多かった。でも、小馬鹿にされる度に自己を主張し、結果で見返した。
4:浅田さん(浅田顕監督)のいるチームで走りたい!と思った時もヨーロッパに行けないなら辞めようと覚悟を決めて、手紙に「自分は他の選手とは違う、強くなる選手です。」と書いた。根拠無し(笑)
5:母親への肝移植後(=2001年、宮澤はドナーとして母親への生体肝移植を行っている)、結果の出ない自分に対して心配する母親に対して、強くなれないのは自分の責任である事を証明したかった。そして、体が壊れるくらい死ぬ気で走った。

いろいろな経験をしているから、自分は強くなれていると思う。
今も狙ったレースのスタートラインに並ぶ時は、
「この中の誰にも負けないトレーニングを積んで自分はここに立っている。負けるはずが無い。」
と思ってスタートします。

実際、自分以上に練習してる選手いないですから。根拠なし(笑)
実力差があるので、負けることももちろんありますよ。世界選手権とか。

(写真:全日本選手権2010のウォーミングアップ中)

★日本チャンピオンジャージはあなたにとってどのようなものですか?
自分を奮い立たせる為の物ですね。
例えば、新城幸也が強い走りをしても=日本人が強い、では無いですよね?
日本チャンピオンジャージを着ていても同じです。
日本チャンピオンジャージを着てる=強い
ではなく、強い走りをする=強い。
強い走りをする選手は注目されます。
だから日本チャンピオンジャージを着て強い走りをしたい!そしてレースで勝ちたい!と思っています。
その上で日本チャンピオンとして評価されたいですね。

(写真:2010年度 TEAM NIPPO版日本チャンピオンジャージにて)

★日本のレース、選手について
否定的に取られたくないのと、文句を言いたいわけではない事を初めに書きます。(笑)

1)戦略的なレースをしてない:
日本のレースを走っていると、常に「優位、不利」という心理だけで追いかけっこをしているだけに感じる。
ツールやワールドカップのレース解説を聞いていても同じことを感じる。
常にさいの目を振るうようなレースをしないで、チームの戦略を走り終わった時に感じるレースをして欲しい。
その上で力負けしたな、今回は・・・
という感想を持てるレースをして欲しい。

2)プロとしての自覚が無い:
選手はプロ選手として自覚を持って生活しなければならない。
しかし多くの選手が練習を早く切り上げて、余った時間をどう充実させるか考えている選手が多い。
レース前ミーティングで、「調子はわからない」や「あまり調子が良くない」といった事を平気で口にする。(ヨーロッパでこんな事を言ったら、次からレースに連れて来てもらえない)
練習は少な目だが、プロテインやBCAAは多目に摂取している。

レストランを例にあげてみましょう。
「今日は調子があまり良く無いからマズイです」って言われたら、もう行かないでしょ?
「一生懸命やってるんです!」って言われても、不味かったり、ちゃんと働けてない所にはお客は来ません。
美味い料理を食ってみろよ!という気持ちで出された料理は、守りに入った普通な料理よりも評価したくなりますよね?

自転車選手も同じです。
「今日のレースはどこまでついていけるかな?」
というレースをしている選手はプロとは言えません。もちろんそんな選手は、ヨーロッパでも通用しません。
プロ選手は言われた仕事以上の働きをして初めて評価されるのです。
5、6回アタックに反応してキツくて千切れた、というのは仕事とは言えません。
もしそうなら、レースのレベルが合ってないということです。

今はヨーロッパのレースをTV等で簡単に見る事が出来ます。
日本のレースでも俺の走りを見てみろよ!という走りが観客を魅了し、走り手を育てて行くと信じています。
早いうちに若い選手に対して選手としての生活を教える選手が必要だと思う。
日本の多くのチームが若い有望な選手を獲得しているが、きちんと育成出来ていないと思う。
10歳代から25歳までの選手は走って寝たら強くなります。
25歳から31歳までの選手は考えないと強くはなれません。
32歳から上は(自分は33歳だから)自分が強くなる為にやるべき事をするかしないか。
そして一番大事なことは、
自分が勝つんだ!という強い気持ちでレースに臨む事。
そして想像も出来ないくらいの練習をする事。

節約とダイエットで頭でっかちにならず、強くなって欲しい。

(写真:ツール・ド・北海道2010のスプリント賞ジャージを着る)

★宮澤崇史のチーム内でのポジション
ツール・ド・ランカウイ2011は初日にチームメイトのグアルディーニがリーダージャージを獲ったので、難関山岳であるキャメロンハイランドまでは完全に彼のアシストとして走った。
第4ステージからは自分の好きなように走った。
自分にとって勝つチャンスがあるとしたら、逃げの展開しかなかった。
エキップアサダの時は逃げもスプリントも考えていたが、逃げに専念する事が出来て、良いレースが出来たと感じている。
イタリアでは、アシストとしての仕事が中心だ。
その中でもチャンスを見つけて、勝つレースをしたいと思っている。
自分のポジションは自分の走り次第ですね。頑張らないと!!認めさせてやる!

★レースでこれがあったら勝てる!というものは何でしょう?
「勝つ」という強い意思、誰にも負けない強い気持ち、目力(めぢから)、誰にも負けない練習量。
非常にシンプルですが、これらが私がロードレースに臨む際の強みになっていると思います。

★スプリントで使うギア比率はなんですか?
実はスプリント力は年々弱っています。
弱っているというよりも、神経系が速く動く事が出来なくなっているというのが正しいです。
パワーは上がっても、速く動く事が出来ないと速くは走れません。
オフトレーニングや、シーズン中に出来る補助運動で補うしか無いですね。
今は53x11が一番重いギアです。

★浅田監督によると、宮澤選手のレース集団内での位置取りは世界トップクラスとのことです。位置取りのコツを教えてください
スプリント前に限らず、位置取りはとても重要です。
通常、集団内ではそれぞれのチームが作戦を考えて動いているので、その動きを見ながら相手の作戦を読みます。風や細い道を通る時などは集団内が緊張し、前のポジションを取りに動き始めます。
そういった一連の動きの中で自分のポジションを決めて行きます。
スプリントでは、チーム単位で動いているチームと1人、もしくは2~3人で動いているチームもあります。
どちらの状況でも言える事は、相手が何をしたいかを読む事が重要です。
1人、2~3人で動いているチームは、早めに集団前方に上がっても次から次へと前に上がって来る選手に囲まれてまた集団後方に下がってしまいます。
チーム単位で動いているチームは、足を使ってでも位置取りするので集団前方をキープしやすいのが特徴です。先頭の選手は集団の主導権をどのタイミングで取るかを決めます。

自分はどちらかというと、少ない人数で動く方が好きなので、チャンスを伺いながら10番手~5番手当たりをキープします。

★グランツールでのステージ優勝の可能性は?
勝算は出場するのであればあるでしょう。
そこに辿り着くのもやはり大変なことですし、それに値する選手が選ばれるとおもいます。
大事なことは、春先のレースで少なくとも1勝したいですね。
そして、現実的にビッグレースでの優勝が出来るんだ!という気持ちでレースに臨みたいと思っています。
夢ですよね。夢はつかんでこそ夢の価値があると思います。

★どうすれば欧州のトッププロになれるのでしょうか?
欧州に住んでレースに臨む事は、それ以外にも多くのハードルがあります。
日本にも世界から挑戦してくる競技がありますよね?
相撲の場合○○部屋に入門して、追い回し、チャンコを作って、マワシの締め方や言葉を学び、日本の文化に触れ、強い選手がどのように強くなっているか観察し、チーム内で自分の地位を確立し、勝ち上がって行く。
でももし日本に来た力士が日本語も話さず、日本人とコミュニケーション出来ず、自国の選手とばかり一緒にいたらどうなるでしょう?
強くなれるわけないと思います。

プロになるという事は強ければ良いというわけではありません。
日本の常識と世界の常識には大きな違いがある事も知らなければなりません。

さて、どうしたら良いでしょう?
自分が思うに、成功している選手と一緒に居る事が一番手っ取り早いと思います。
自分はフランスで選手生活を送っていた当時浅田監督のチームの選手だった福島晋一選手と一緒に生活したい!と申し出ました。朝起きて、フランス語を話しにホストファミリーの家に行ったり
お世話になっている元選手や友達の選手の働く所へ顔を出し、コーヒーを飲みながら生活に必要な情報や、レースの話をします。
そうするといろいろなヒントを話してくれます。
面倒な事だな~と思った時もありました。しかし、そういった情報は海外で生きて行く上で、レースを走る上でとても重要だと気づきました。

成功している選手を見習うのは近道が沢山あります。
自分のやり方に凝り固まっていると、強くはなれると思いますが、大変でしょうね。
日本の選手を見ていると、自分はこのやり方だから・・・と自分のやり方を貫き通したがる選手が多いですが、さほど強くなっていなければ見直したほうが良いとおもいます。

と、ここまでは選手として当たり前なお話です。

★少々砕けた質問になります。
宮澤選手といえば、日本自転車ロード界の伊達男筆頭選手ですが(笑)、その色気の源はなんですか?
これには訳があります。実は・・・
いつだったかな?知人に、宮澤選手は優しい目つきをしていて目ヂカラが無いですよね~。
と言われたことがあります。ショックでした。
少なからず、勝負する人間にとって目ヂカラが無いってことは、求愛している動物に対して「魅力が無い」って言われているようなもの。
この時、目ヂカラをつけるには・・・・(エキップアサダ)浅田顕監督だ!
と思い、浅田さんが話をしている時の顔の角度、言葉に込める思い、真剣さを研究しました。

(写真:このメヂカラを見よ!「みやざわ屋―っ!」)

選手はどのように周りに見られているのだろう?
宮澤崇史は他の選手と何が違う?
宮澤崇史は誰が好き?

いろいろ考えて、3つ目の誰が好き?「あ~、マリオ・チポッリーニ(往年の超有名スプリンター。元世界チャンピオン)だ!」

まぁ、無理がある決めつけ方ですが、そこからマリオを研究しました。
何故彼があそこまで格好良いのか?他にもイタリア選手は色気があるが、マリオは何かが違う。
情報を集めましたよ、彼の自転車に乗るフォームや周りの人と話すときのしぐさ、ジェスチャーの仕方、話し方、笑い方、スタート前の待ち方、シャンパンファイトの振り方、姿勢
そして、宮澤ならどう自分を表現するのか?
モノマネでは所詮モノマネなんです。
自分らしく振舞って初めてその人に価値があると思います。

女の子にモテたくてしている訳では無いのです。(本当!)
今は私の考える自転車の未来が、自転車を愛する人にとって輝かしい未来になって行って欲しいと考えます。
その為にも影響力のある選手になりたいと思っています。
これから自転車選手になりたい!という若者にとっても魅力のある選手であり続けたいとも思っています。

★最近自転車以外でハマっているものはなんですか?
(シーズンイン前の)タイ合宿ですね。って、モロ自転車だな。。。。
趣味は音楽を聞いたり、ドライブ、料理、食べ歩き
音楽はクラシック、オペラが中心。最近ハマっているのが「LA BOEM」というオペラ。
イタリア語の勉強にもなるし。たまに歌う(笑)
ドライブは、日本にいる時は都内を走るのが好き。オープンカーで走るのは気持ちがスッキリする。
イタリアにいる時は、景色のきれいな所で音楽をかけながら午後の一時をボ~っとするのが好き。夜、星を見に行くのも好き。
料理は常に好き。
イタリアでは、食べる量に気をつけるから美味しい物を作る!
好きな料理は「手作り餃子」皮作りが勝負!モッチリでも粉っぽく無く、口の中で具と皮のどちらも主張しすぎないように作る。
食べ歩きも大好き。

イタリアにいる時は、ピッツェリア、カプチーノを食べ歩く。
ピッツァは基本的なマルゲリータ・ディ・ブッファラ(水牛のモッツァレラのピザ)。ピッツァ生地はモッチリタイプのナポリ生地が好き。薄い生地は生地の美味さや香り、口当たりがイマイチに感じるから。
カプチーノはBAR1件1件、全く味が違うのが面白い。
カフェとミルク泡の混ざり方が重要、カップの中で分かれていてはダメ。カフェが泡に溶け込んでいて、いつの間にか泡しか残っていない!ってのが最高。
ビールを美味しく入れる人と同じかもね。


★最後にエキップアサダ強化選手「エカーズ」の選手が強くのし上がるためにはどうすれば良いか?のアドバイスをお願い致します:
簡単に申し上げると、大したベースが無いのにいきなりヨーロッパに行ってもはね返されてしまうと思うんです。
今日本を代表する選手のほとんどがタイで合宿をしてますよね。強くなる練習とはどんな練習か?
レースを勝つにはどんな練習をしないといけないか?
その答えがタイにあるから皆行くのです。
(注釈:シーズンイン前に日本のトップ選手らがタイで合宿を行うことが恒例となっている)

そして、ヨーロッパにいったらフランス人の友達を作ります。
わからないことはチームメイトや監督に聞きます。
レースを走る時は強い選手のフォームやギア、何を考えているか観察し、自分がそこで勝つイメージを持ちます。
走ったレースのレポートを書きます。勝てる選手の内容はそのレースを見ていなくても想像できるレポートを書いています。
家に帰ったらどうしたら体調が良くなり、自分に何が足りないかをトレーニングします。
常にレースで体調が良いというのも重要です。

エキップアサダの時は、(清水)ミヤタカ、(新城)幸也、(福島)晋一、(宮澤)崇史は常にレース前ミーティングで「調子良いです!」と答えていましたね。
だって、レースで調子悪かったらそれまでの練習も、たいした練習してないということですよね?
無駄な日を過ごすほど時間はありません。

そして、レースに勝ったらその勢いでどんどん強くなりましょう。
1回勝って止まっていたらもったいないですから。

助言ですが
昨日は調子良かったのに、今日は全然走れない。。。
という調子の波が激しい選手は、基本的な練習が足りない選手です。
練習しているのに調子が上がらない。。。
という選手は、走っているリズムが悪かったり、踏み過ぎの傾向があるかもしれません。

一生懸命走れば強くなるというものではないですから。

(写真:アジア選手権2011。宮澤選手&福島晋一選手の強力アシストにより新城幸也選手がアジアチャンピオンになった)



(写真:ツール・ド・北海道2010)

【宮澤崇史(みやざわたかし)プロフィール】
・出身:長野県
・生年月日:1978年2月27日
・身長:165cm
・体重:60kg
・血液型:B型

略歴
●2003年-2009年:浅田顕監督のチームにて活躍
(ブリヂストン・アンカー→エキップアサダ)
●2008 年、北京オリンピック男子ロード
レース日本代表選手に選出される。
●2010 年、全日本自転車競技選手権大会ロードレースにて優勝し、全日本チャンピオンジャージを獲得
●2011 年、イタリアのプロコンチネンタルチーム「ファルネーゼヴィニ・ネーリ・
Mチポッリーニ」に移籍

宮澤崇史ホームページ「BRAVO」
http://bravo-tm.com/
宮澤崇史 on Twitter @Bravotakashi

(All photos are courtesy of KANAPUSAMA)
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